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東京地方裁判所 昭和58年(行ウ)93号 判決

原告 田中章雅 外四〇名

被告 東京都調布市長 外一名

主文

原告らの被告東京都調布市長に対する訴えをいずれも却下する。

原告らの被告金子佐一郎に対する請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(住民訴訟)

1(一) 被告東京都調布市長が昭和五六年九月七日付けで別紙物件目録一ないし三の土地についてした児童遊園から福祉作業所等用地への用途変更が無効であることを確認する。

又は

(二) 右(一)記載の用途変更を取り消す。

2 被告金子佐一郎は、東京都調布市に対し、金一億三一五五万円を支払え。

3 訴訟費用は被告らの負担とする。

(抗告訴訟)

1(一) 住民訴訟の請求の趣旨1(一)記載の用途変更が無効であることを確認する。

又は

(二) 住民訴訟の請求の趣旨1(一)記載の用途変更を取り消す。

2 訴訟費用は東京都調布市長の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

(住民訴訟)

一  請求原因

1 (原告らの地位)

原告らは、東京都調布市(以下「調布市」という。)の住民である。

2 (本件用途変更)

被告東京都調布市長(以下「被告市長」という。)は、別紙物件目録一ないし三記載の土地(以下「本件土地」という。)上に福祉作業所兼授産所兼会議室(鉄筋コンクリート造陸屋根二階建、一階四二九・六七平方メートル、二階二〇二・二一平方メートル)(以下「本件建物」という。)を建設することを計画し、昭和五六年九月七日付けで本件土地の用途を児童遊園から福祉作業所等用地へ変更した(以下この用途変更を「本件用途変更」という。)。

3 (行政処分性)

本件用途変更は、次のとおり、地方自治法二四二条の二第一項二号に規定する行政処分に該当するものである。

(一) ある行為が行政処分に該当するためには、次の要件を具備する必要があるとされているところ、本件用途変更は、これらのすべてを満たすものである。

(1) 行政庁のなす行為であること

本件用途変更をしたのは、調布市長であり、行政庁にほかならない。

(2) 公法上の具体的事実の規律行為であること

本件用途変更は、調布市富士見町二丁目児童遊園の区域を変更するものであり、その具体的範囲が変更されるので、具体的事実を規律する行為であることは明らかである。

また、調布市児童遊園条例の実質的変更という点から考えると、条例それ自体が具体的事実の規律行為に当たらないとしても、本件用途変更は、原告らが居住する集合住宅であるコープ調布の関連施設として設置された児童遊園を原告らから奪うものであつて、具体的事実の規律行為に該当する。

(3) 外部に対してなされる行為であること

本件用途変更により、調布市富士見町二丁目児童遊園を関連施設として利用してきた原告らは、利用権を完全に剥奪されている。本件用途変更が、原告らに対してなされた行為であることは、紛れもない事実である。

(4) その行為によつて国民の権利義務が創設され、又はその範囲が確定されるなどの法的効果が生ずること

右に述べたように、本件用途変更により、調布市富士見町二丁目児童遊園を関連施設として利用してきた原告らの権利は、用途変更がなされた区域につき、完全かつ直接に剥奪された。同児童遊園は、市民一般の利用が可能ではあるが、あくまで原告らの関連施設整備のために設けられたものであり、この事実は調布市の「開発行為ならびに集合住宅建設等に伴う指導要綱」(以下「指導要綱」という。)によつて明らかである。

(5) 公権的行為であること

本件用途変更処分は、被告市長によつて公権力の行使としてなされたものである。私法行為や、公法上の法律行為としてなされたのではない。

(二) 被告は、地方自治法二四二条の二第一項二号にいう「行政処分」とは、財務会計上の行為に限ると主張する。しかし、同号は「行政処分たる当該行為の取消し又は無効確認の請求」と定めるのみであつて、「財務会計上の行為に限る」とは定めていない。また、同条は、同法二四二条の住民監査請求を前提とした条文であるが、同条では、「違法若しくは不当な公金の支出、財産の取得、管理若しくは処分、契約の締結若しくは履行若しくは債務その他の義務の負担」と規定している。そして、その「財産」とは、同法二三七条一項にいう財産の意であつて、自治体の保有にかかわるすべての動産、不動産、無体財産などをいい、行政財産たると普通財産たるとを問わないのである。したがつて、同法第二四二条の二にいう「行政処分」も、同法二四二条を前提として考える以上、財務会計上の行為に限ると狭く解釈する理由はない。

(三) 仮に、地方自治法二四二条の二第一項二号にいう「行政処分」が財務会計上の行為に限られるとしても、本件用途変更は財務会計上の行為たる性質を有する行為又は少くとも財務会計上の行為と一体的関連性のある行為であつて、右の「行政処分」に該当する。

すなわち、第一に、本件用途変更に伴い、調布市は、福祉作業所兼授産場兼会議室を建設し、後記のとおり、総額一億三一五五万円の公金支出がなされたのであつて、本件用途変更と財政的支出とは一体不可分の関係にある。

第二に、本件用途変更により調布市の公有財産である本件土地の管理状態が変更され、その維持管理の費用に変更があり、財務会計上の処理を伴つている。

(四) なお、地方自治法二四二条の二第一項二号にいう「行政処分」が財務会計上の行為に限るか否かについて、最高裁判所昭和五一年三月三〇日判決(裁判集民事一一七号三三七頁)は、「地方自治法二四二条の二所定のいわゆる住民訴訟の対象となるものは同法二四二条一項所定の地方公共団体の執行機関又は職員による同項所定の一定の財務会計上の違法な行為又は怠る事実に限られるものであり」と判示しているが、右判決の趣旨は、次のように解すべきである。

すなわち、同法二四二条の二第一項二号は、「行政処分たる当該行為の取消し又は無効確認の請求」を住民訴訟の対象としているが、対象となる具体的行為は、同法二四二条一項に掲げられた「公金の支出」「財産の取得、管理若しくは処分」「契約の締結若しくは履行若しくは債務その他の義務の負担」「公金の賦課若しくは徴収、若しくは財産管理の懈怠」である。右最高裁判決の趣旨は、法二四二条一項所定の行為は財務会計上の行為に該当するという趣旨であつて、問題は本件用途変更行為が違法な「財産の管理」に当たるか否かのみであり、「財産の管理」に該当すれば、それはすなわち財務会計上の行為になるという趣旨であると考えられる。

そこで、同法二四二条一項の「財産」の意義であるが、「財産」とは、同法二三七条一項にいう財産の意であつて、自治体の保有にかかわるすべての動産、不動産、無体財産などをいい、行政財産たると普通財産たるとを問わないものである。

本件土地は、調布市の保有する不動産であるから、同法二四二条一項の財産に該当し、この違法な管理、すなわち違法な用途変更は、住民訴訟の対象となる行政処分である。

また、前記最高裁判決が、財産の管理にも財務会計上の行為といえないものがあり、ただ財務会計上の財産の管理である場合にのみ住民訴訟の対象となる旨を判示しているものと解されるとしても、本件用途変更は、右判決にいう財務会計上の行為たる性質を有する。

すなわち同法一七〇条一項は「出納長及び収入役は、当該普通地方公共団体の会計事務をつかさどる。」と定め、同条二項本文は「前項の会計事務を例示すると、おおむね次のとおりである。」として、五号で「現金及び財産の記録管理を行うこと。」と例示している。本件土地は、同法の定める財産であつて、五号が例示する記録管理の対象となる財産であるから出納長及び収入役がつかさどる会計事務のうちに含まれることになる。したがつて、これを財務会計上の行為でないとすることは、地方自治法の根幹を否定することになる。しかも、この記録管理は、単に保有する土地の面積を把握するだけでは足りず、財産に関する調書の作成ができる程度でなければならない。財産に関する調書の様式は、同法施行規則一六条の二で定められているが、公園の土地面積は、その他の施設の土地面積と明白に区別して記載する旨が定められている。調布市公有財産管理規則別表1においても、公有財産区分種目表として、公園用土地は、学校用土地、公営住宅用土地と共にその他の土地とは明確に区別して記帳整理されなければならない旨が定められている。そして、この公園用土地に本件土地(調布市富士見町二丁目児童遊園)が含まれることは当然である。公園用土地に児童遊園が含まれることは、調布市の財産に関する調書に独立して公園の欄がなく、一括して「公遊園等」となつていて、調布市富士見町二丁目児童遊園が含まれていることからも、争う余地のない事実である。

4 (本件用途変更の違法性)

本件用途変更は、次のとおり違法である。

(一) 条例違反

(1) 本件土地及び別紙物件目録四記載の土地は、日本勤労者住宅協会が昭和五五年九月二四日に調布市に寄付したものである。

調布市は、同年一一月一〇日、本件土地の用途を児童遊園とする用途決定をし、昭和五六年三月二七日、本件土地は、別紙物件目録四記載の土地と共に調布市児童遊園条例による調布市児童遊園とされた。

(2) 本件用途変更は、前記のとおり、本件土地の用途を児童遊園から福祉作業所等用地へ変更するものであるところ、本件土地の用途を児童遊園から福祉作業所等用地へ変更することは、児童遊園を廃止するに等しいものであり、少なくともその主要部分を廃止するものである。

ところで、地方自治法二四四条の二第一項は、「普通地方公共団体は、法律又はこれに基づく政令に特別の定めがあるものを除くほか、公の施設の設置及びその管理に関する事項は、条例でこれを定めなければならない。」と規定しており、条例で設置された公の施設を廃止するには、当然のこととして当該条例の改廃が必要である。したがつて、条例による児童遊園を廃止するには、当該児童遊園条例の廃止に関する定めに従つて廃止手続をとるか、さもなければ児童遊園条例の当該遊園に関する部分を廃止するしかないことになる。調布市富士見町二丁目児童遊園は、地方自治法の右規定に基づき制定された調布市児童遊園条例によりその設置を定められた公の施設であるところ、同条例には廃止に関する規定がないので、同児童遊園を廃止するには、条例の当該部分を削除する条例改正手続が必要なのである。

児童遊園の一部を廃止するについては次のように考えるべきである。長野士郎著・逐条地方自治法は、地方自治法二四四条の二の解釈として「公の施設の設置に当たつてその位置を決定する場合には、住民の利用に最も便利であるように定めなければならない(法四参照)。公の施設の設置条例には、公の施設を設置する旨及びその名称、位置等を規定するほか、必要があるときは、所轄区域についても規定すべきである。」と述べている。右児童遊園条例においては、所轄区域までは条例で定められていなかつたが、これは、市長の条例提案説明及び現地の形状から所轄区域が明確にされるところから、当該所轄区域が不可分一体のものとして条例上扱われ、不可分一体として設置、廃止されるべきことを意味している。

したがつて、条例に一部廃止に関する規定がない場合には、児童遊園の一部廃止ということはありえず、外形的に見て一部を廃止しなければならない場合には、全体として児童遊園を廃止し、一部を新たに児童遊園として設置するしかないのである(それを二重手間というなら、最初から所轄区域を定めれば、所轄区域を条例上変更するだけで足りる。)。このように解しなければ、地方自治法二四四条の二が、公の施設について条例主義を採つた趣旨(公の施設行政の適正・公平な実施を広く住民の法的コントロールの下におく趣旨)は失われてしまう。

被告は、本件土地について、昭和五六年九月七日、調布市公有財産管理規則(昭和四一年調布市規則第五号)(以下「管理規則」という。)三五条の規定により、被告市長の決裁を得て、所管換えにより用途変更をしたと主張する。しかしながら、管理規則によつて用途変更できるのは、条例主義の適用を受けていない場合(例えば、調布市児童遊園条例によつて児童遊園となる以前の本件土地)のみと解すべきである。

仮に、条例主義の適用を受けている土地についても管理規則によつて用途変更できるとしても、本件のように児童遊園条例で設置された時点の面積の半分以上の面積の土地を用途変更することは、市長の権限の濫用であつて許されない。前述の条例主義の理念から考えても、また、講学上の公共用物(直接一般公衆の公共使用に供される官公署の建物など)として調布市の福祉業務達成のための福祉作業所兼授産所兼会議室の用地へと性格を変じた点からも市長の権限濫用たることは免れえないのである。

(3) よつて、本件用途変更は、無効であり、又は、取り消されるべきである。

(二) 寄付の趣旨違反

(1) 本件土地及び別紙物件目録四記載の土地は、前記のとおり、日本勤労者住宅協会が調布市に寄付したものであるところ、別紙物件目録一及び四記載の土地は、調布市の指導要綱に基づく、調布市と日本勤労者住宅協会(代理人は生活協同組合東京住宅供給センター)との事前協議に基づいて調布市に寄付されたものである。また、別紙物件目録二記載の土地は、指導要綱に基づく、調布市と生活協同組合東京住宅供給センターとの事前協議に基づいて寄付されたものである。別紙物件目録記載三の土地は、右のような事前協議に基づかないで調布市に寄付されたものである。

(2) 右各土地の寄付の趣旨は、原告らコープ調布の居住者の関連施設の整備であり、その思想は自己負担の原則である。本来、調布市における公共施設の整備は、調布市が全面的に負担すべきものである。にもかかわらず、調布市の財政悪化、公共施設整備の立ち遅れ等のため一定規模以上の開発について、いわば例外的に公共施設整備を開発者(経済的負担の実質は入居者である原告ら)に強いてきたのである。しかし、その例外が強いられる限度も、あくまで、自己の物は自己で整備するという自己負担の原則、機能に着目していえば、原告らの関連施設の整備ということに限られるのである。したがつて、右各土地は、原告らの関連施設たる公遊園を整備する目的のために調布市に寄付されたのであり、その使用目的は、寄付の根拠となつた指導要綱から生ずる内在的制約として、これを逸脱することができない。

(3) その結果、調布市は、昭和五五年一一月一〇日ころ、本件土地及び別紙物件目録四記載の土地を調布市富士見町二丁目児童遊園としてその用途に供すると共に、調布市児童遊園条例により調布市児童遊園の一つと定めた。

(4) 本件土地は、前記のような事実に基づいて調布市に寄付されたものであるから、これを公遊園以外の用途に変更することは違法であつて許されない。よつて、本件用途変更は、取り消されるべきである。

5 (請負契約の締結)

被告金子佐一郎(以下「被告金子」という。)は、調布市長として、本件土地上に本件建物を建設するために、昭和五六年一〇月二七日、阿部建設株式会社との間で契約金額を八七一〇万円とする工事請負契約を締結して右同額の債務を調布市に負担させ、大気冷熱工業株式会社との間で契約金額を二四四五万円にて工事請負契約を締結して右同額の債務を調布市に負担させ、扶洋電機株式会社との間で契約金額を二〇〇〇万円とする工事請負契約(以下これらの請負契約を「本件請負契約」と総称する。)を締結して右同額の債務を調布市に負担させ、右債務負担行為に基づき調布市の公金を支出した。

6 (債務負担行為等の違法性)

しかしながら、本件用途変更は、右4で述べたとおり、違法であるから、被告金子のした前項の債務負担行為及び公金の支出も違法である。すなわち、本件用途変更の違法は、これを前提行為とする右債務負担行為及び公金の支出に承継されるものである。

本件用途変更、本件建物の工事請負契約、同契約に基づく公金の支出は、それぞれ相互に一体的関連性を有してなされたものである。行政上の行為は、通常連続的に行われるのであつて、公金の支出にしても支出負担行為のほかに、いくつかの前段階の行為が行われる。用途変更行為自体が非財務的行為であつたとしても、その後に行われる行為が連続的に密接な関連を有している場合には、前提行為である非財務的行為の違法性は、その後に行われる行為に承継されると考えるべきである。

7 (調布市の損害)

調布市は、被告金子のした前記債務負担行為及び公金の支出により前記請負契約の契約金額の合計額である一億三一五五万円と同額の損害を受けた。

もつとも、本件支出負担行為により、調布市は支出負担額に相応する建物を取得しており、この点では損害はないかの如くである。この点に関して学説は、「地方公共団体に利益がある場合でも、それが違法性を有するものであれば、住民訴訟によつて、一挙にその違法性を是正する途を開いておくべきではなかろうか。」と述べて、形式的な損害の有無という観点からでなく、違法性の観点から住民訴訟を認める立場に立つており、本件も同様に考えるべきである。

8 (被告金子の責任)

被告金子は、前記債務負担行為及び公金の支出が違法であることを知りながら(知らなかつたとすれば過失がある。)右各行為をして調布市に前記損害を与えたものである。

よつて、被告金子は、調布市に対して、前記一億三一五五万円の損害賠償責任がある。

9 (住民監査請求の経由)

(一) そこで、原告らは、昭和五八年二月二一日、調布市監査委員に対し、本件土地を児童遊園として維持し、本件工事請負契約によつて支出された金員の返還すること等の勧告措置を求める旨の監査請求をしたが、同監査委員は、同年四月二一日、原告らに対し、請求は理由がない旨の監査結果を通知した。

(二) 右住民監査請求は、本件用途変更の日である昭和五六年九月七日から地方自治法二四二条二項本文に規定する一年の期間を経過した後になされたものであるが、右提起期間を遵守できなかつたことには、次に述べるとおり正当な理由がある。

(1) 調布市は、本件用途変更が行われたことを秘密にし、原告らを含む調布市民にこれを知らしめなかつた。すなわち、調布市は本件土地に建物を建設することについて、昭和五七年一〇月二日、第一回説明会を開催したが、この際にも用途変更について一切の説明がなかつた。

(2) しかも、調布市は、昭和五七年一〇月二〇日に原告らが東京地方裁判所八王子支部に申請した仮処分事件(同支部昭和五七年(ヨ)第七四二号)の仮処分命令申請書の申請の理由において、本件土地が「従来、宅地として事実上の利用が許容されてはいたが、正式に公園緑地、緊急避難場所としては指定されていない。」と虚偽の事実を述べ、用途変更はおろか、本件土地が調布市児童遊園条例により児童遊園と定められていたことさえ秘匿したのであつた。

(3) 調布市が用途変更の事実を主張したのは、昭和五八年二月一五日が初めてであつて、それは右仮処分異議事件(昭和五七年(モ)第二三九六号)の準備書面においてであつた。

(4) 以上のような経過であり、原告らは本件用途変更を本件用途変更の日から一年を経過した昭和五七年九月六日までに知らなかつたのみか、この事実が秘匿され知り得なかつたのである。

そして、原告らが本件用途変更を現実に知つたのは、当事者目録1、5、17、29及び41記載の原告については昭和五八年四月二一日であり、同2ないし4、6ないし16及び18記載の原告については同年五月七日であり、その余の原告らについては同年四月二三日である。

(5) したがつて、一年の期間を遵守できなかつたことには、正当の理由がある。

(三) 被告市長は、本件用途変更の無効確認又は取消しを求める訴えは監査請求前置主義違反であると主張する。

しかしながら、地方自治法二四二条の二の住民訴訟とその訴提起の適法要件として前置されるべき同法第二四二条の監査請求とは、その対象において彼此同一性があることを要するところ、監査請求の対象は、そこで求められている措置の内容ないし類型によつてではなく、普通地方公共団体の長その他による違法不当な行為又は怠る事実にかかる監査請求の趣旨、理由によつて特定されるべきものであり(ただし、求められている措置の内容ないし類型は、この特定のための一助となることはあり得る。)、他方、住民訴訟の対象がその請求の趣旨、原因によつて特定されることはもちろんであつて、この両者の同一性とは、住民訴訟の前記の目的に照らし、厳格、形式的な同一性ではなく、実質的な同一性があれば足りると解するのが相当である(東京高等裁判所昭和五七年二月二五日判決(判例時報一〇三八号二七四頁))。

原告らは、住民監査請求において、「本件土地を児童遊園として管理するための必要な措置を」講ずることを求めており、本件用途変更の無効確認又は取消しを求める訴訟との間に、形式的同一性も存する。したがつて、被告市長の右主張は、理由がない。

10 (結論)

よつて、原告らは、前記監査結果に不服があるので、地方自治法第二四二条の二第一項二号に基づき、被告市長に対し、本件用途変更の無効確認又は取消しを求め、同項四号に基づき、被告金子に対し、調布市に代位して前記一億三一五五万円を調布市に支払うことを求める。

二  被告市長の本案前の主張

1 本件用途変更は、次のとおり、地方自治法二四二条の二第一項二号に規定する行政処分には該当しないから、住民訴訟の対象とはならないものである。

(一) 本件用途変更の経緯は、次のとおりである。

(1) 調布市は、昭和五五年九月二四日、日本勤労者住宅協会から本件土地及び別紙物件目録四記載の土地の寄付を受けた。

(2) 右寄付を受けた後、別紙物件目録四記載の土地は、児童遊園として調布市の行政財産となり、調布市都市整備部公園緑地課(以下「公園緑地課」という。)が管理し、本件土地は、とりあえず普通財産として調布市総務部管財課(以下「管財課」という。)が管理した。そして、調布市は、本件土地を最終的利用目的は未定のまま、暫定的に別紙物件目録四記載の土地と一体として管理、利用することとし、昭和五五年一一月一〇日、児童遊園用地に用途決定した。昭和五五年度の調布市の財産に関する調書には、本件土地及び別紙物件目録四記載の土地が児童遊園用地として記入され、児童遊園用地として管理された。

(3) 調布市は、最終的な用途が未定であつた本件土地を福祉作業所等の建築敷地に利用することとして、昭和五六年九月七日、管理規則三五条の規定により、被告市長の決裁を得て、所管換えにより本件土地の用途変更(本件用途変更)をした。

(二) 本件用途変更によつて、本件土地の所有権等の権利に変動が生じたことはなく、本件土地が調布市の行政財産であることにも変動は生じていない。また、本件用途変更は、原告らを名宛人としてされたものではなく、原告らの具体的権利義務に消長をきたすものでもない。そして、本件用途変更は、外部に対してなされた行政行為ではない(原告らを含む調布市民に通知、公示等をすべきことが定められている行為ではない。)から、本件用途変更は、行政内部の意思確定行為であり、行政内部の事務処理的行為にすぎない。したがつて、本件用途変更は、行政処分性を有しないものというべきである。

(三) 地方自治法第二四二条の二第一項二号により住民訴訟の対象となる行政処分は、財務会計上の行為に限られるところ、本件用途変更は、財務会計上の行為に該当しない。

(1) 本件用途変更によつては、何らの現金等の支出などなく、不動産の所有権等の権利の変動も一切なく、いずれも行政財産であることに変わりはない。したがつて、右用途変更行為は、行政内部の事務処理的行為にすぎない。

財務会計の担当者たる収入役が右用途変更に関与するのは「財産に関する調書」作成のみである。財産に関する調書は、地方自治法二三三条一項の規定により、収入役が決算を調製するに当たり、年度末における市の所有に属する主要な財産を記載するものである。本件についていえば、昭和五五年度の「財産に関する調書」に調布市富士見町二丁目児童遊園用地として、一一一七・四一平方メートルとあつたものを、昭和五六年度「財産に関する調書」では、本件土地の用途変更により、別紙物件目録四記載の土地のみ二〇五・七二平方メートルと記載され、本件土地は、福祉作業所等の用地として記入されているものである。

本件土地については、用途変更前は公園用地で行政財産として公園緑地課で管理されていたものが、その後は福祉作業所等の用地となり、社会福祉部福祉事務所で管理されているにすぎない。原告は、本件用途変更は本件土地の財産的価値をいちじるしく損うと主張するが、本件用途変更により本件土地の客観的価値にはいささかの変動も生じないことは明らかである。

住民訴訟は、その制度目的からみて、地方公共団体に財産上の損失となる行為に限られているのであるから、本件のように客観的損害が生じないような用途変更行為は、住民訴訟の対象とはならない。

(2) 原告らは、本件用途変更は、福祉作業所建設費用である公金の支出と一体不可分の関係にあり、本件土地の管理状態及びその維持管理費用の変更をもたらすものであるから、財務会計上の行為であると主張する。

しかし、「非財産的目的のためにする行為が、たとえ財務処理と表裏一体をなし、結果的に地方公共団体の財産の経済的価値に何らかの影響を及ぼすことがあるとしても、この点を把え本質的に性質を異にする財務処理を目的とする財産の管理等にも当たるとして、住民訴訟の対象とすることはできない」として、道路の廃止、区域変更等の管理行為は、それが「行政財産から普通財産に切換わることになるとしても住民訴訟の対象となる財務会計上の行為ということはできない」とするのが判例の立場であり、本件土地の用途変更についても、全く同一の論拠により、これを住民訴訟の対象となり得ないと解すべきである。

2 被告市長に対する本件訴えは、地方自治法二四二条の住民監査請求を経由していないので、不適法である。すなわち、住民訴訟の対象は、住民監査請求に係る違法な行為又は怠る事実と全く同一である事実か、少なくとも住民監査請求に係る行為又は事実から派生しあるいはこれに後続することが必然的に予測される行為又は事実のみである。本件用途変更は、明らかに、原告らの住民監査請求に係る行為又は事実とは別の行為であつて、仮に住民監査請求に係る行為又は事実に先行し、あるいはその前提となる行為であるとしても、これに対する直接の住民監査請求がされていない以上、被告市長に対する本件訴えは、住民監査請求を経由していないものとして、不適法である。

三  本案前の主張に対する認否

本案前の主張は争う。

四  請求原因に対する認否及び反論

1 請求原因1、2は認める。

2 同3は争う。

3 同4(一)について

(一) (1)は認める。

(二) (2)は争う。

本件用途変更を行うについては、条例の改正手続を必要としない。すなわち、

(1) 公の施設の設置条例では、当該公の施設が特定できる程度の表示をすれば足り、また、その限りにおいて条例の効力が及ぶものと解すべきである。調布市児童遊園条例では、二条において児童遊園の「名称及び位置」のみを規定し、特に「所轄区域」についての規定を置いていないのであるから、「所轄区域」には条例の効力は及ばない。調布市において「所轄区域」まで条例に規定しなかつたのは、行政の弾力的運用を考え、児童遊園の面積の増減に対処し得るよう意図したからである。例えば、調布市富士見町二丁目児童公園及び同市野ケ谷公園は、昭和五五年度中に面積が増加している。しかし、所轄区域は条例の規定事項ではないことから条例改正手続を経てはいない。面積の増加によつて、当該公遊園の特定が阻害されることはないからである。

(2) 右と同様の理由により昭和五六年中に本件児童遊園の面積は減少したが、「富士見町二丁目児童遊園」は存在し、その特定に欠けることがないのであるから条例改正手続を経る必要が存しなかつたのである。

もともと、減少した面積は「二―一六―三三」、「二―一六―三五」、「二―一六―三六」の地番であり、これは、公共用地として寄付されたものを公園として寄付された「二―一六―三四」と一体管理するために当面公園としたものである。したがつて、そこには将来的に具体的用途決定の際には公園から他に用途変更されることあるべきことが予定されていた(この点からも本件用途変更につき市長の権限濫用は生ずる余地がない。)。そうであるからこそ、公園としての特定を失わせることがないようにと配慮して条例で定められた公園の位置を「二―一六―三四」(本来公園として寄付された土地)と表示したのである。

(3) 右にみたとおり、本件用途変更は、あくまでも変更であつて、廃止ではない。したがつて、条例の改正を要するものではない。

仮に、本件用途変更が一部廃止であるとしても、公の施設たる本件児童遊園そのものを廃止したわけではないのであるから、いわゆる「廃止」に含まれない。したがつて、条例改正手続を経ることは必要ないのである。

(4) 前記行政の弾力的運用について敷えんすれば、次のとおりである。

調布市には広い意味での公園に含まれるものとして、都市公園法上の公園、児童遊園、仲よし広場と大別して三つの種類があり、設置目的の違いもあるが、敷地土地の所有形態・使用権限が長期にわたつて安定しているものは都市公園とし、権限等の不安定なものを児童遊園としている。

都市公園については、名称、位置、区域等の変更については法律、政令に従うことになつている。児童遊園は名称、位置のみ市条例で定められ、区域・面積等については柔軟性をもたせている。

右のように公園の形態によつてその運用方法等を変えているのは、市民のため少しでも広い公園を確保したいと同時に、例え一時的、暫定的であつても遊休地があれば解放して、子供たちに使用できるようにしたいとの方針でなされたものである。

児童遊園については、名称、位置のみ条例で定め、その区域・面積等は運用の実態に委ねるため、市長決裁としているのは以上のようにそれ相当の理由があるものであり、決して法の定めるところを逸脱しているものではない。

現に東京都の各市の児童遊園に関する条例において、名称、位置は条例の規定事項にしているが、所轄区域まで条例によるものとしている例はない。

(5) 以上要するに、原告らの条例改正を経ない用途変更の無効、違法に関する主張は、理由がない。

4 同4(二)について

(一) (1)のうち、本件土地及び別紙物件目録四記載の土地は、日本勤労者住宅協会が調布市に寄付したものであること、これらの土地は、指導要綱に基づく事前協議に基づいて寄付されたものであることは認め、その余は否認する。

(二) (2)のうち、右各土地の寄付の趣旨が、原告らコープ調布居住者の関連施設の整備であること、原告らの関連施設の整備に限られること、右各土地が原告らの関連施設たる公遊園を整備する目的のために寄付されたものであることは否認し、その余は争う。

調布市が公園敷地として寄付を受けたのは、別紙物件目録四記載の土地のみであつて、本件土地は、公共用敷地として、調布市の公的施設建設等、調布市の自由な選択による用途に供する目的で寄付を受けたものである。

なお、原告らは、指導要綱中の関連施設の意味を原告らコープ調布の居住者に直接関連する施設の意味に解している。しかし、調布市が指導要綱に基づき寄付を要請しているのは、全市的立場から、全市民のための施設であつて、コープ調布居住者のみのための施設でもなく、個々具体的に特定されたものでもない。したがつて、寄付を受けた本件土地の使用は、全市的立場から調布市の自由に委ねられているものである。

(三) (3)のうち、調布市が原告ら主張の土地を児童遊園としてその用途に供するとともに、条例により児童遊園の一つと定めたことは認めるが、その余は否認する。その日時は、昭和五六年三月二七日である。また、右各土地のうち、本件土地については、右の措置は、管理上暫定的措置としてなされたものである。

(四) (4)は争う。

5 同5のうち、被告金子が調布市長として原告ら主張の契約を締結したことは認め、その余は否認する。

6 同6は争う。

原告らの公金支出等に関する違法性の主張は、前提行為である本件用途変更が非財務的行為であつても、それの違法は、後に行われる連続的な密接的に関連性を有する公金支出に承継されるというものであり、要するに、本件用途変更の違法を不可欠の大前提とする主張である。

ところで、本件用途変更は、本案前の主張において主張したとおり、行政内部の手続にすぎないものであつて、抗告訴訟の対象となる行政庁の処分に該当せず、仮に処分に該当するとしても抗告訴訟の出訴期間を徒過しているから、いずれにしても、抗告訴訟の訴訟要件を欠くものであることが明らかである。

右のとおり、本件用途変更は、抗告訴訟において取消しの対象とはなり得ない以上、他の行為の前提行為としての違法を主張することも、その違法の承継を主張することも論理的に不可能であるというべきである。また、本件用途変更に処分性ありと考えた場合にも、前記訴訟要件の欠如により抗告訴訟の対象となり得ないのであり、右行為の公定力により適法・有効とされるのであるから、違法性の承継の理論によつて公金支出が違法性を帯びることはあり得ない。

住民訴訟の対象は、公共団体に財産上積極、消極の損害を与え、その結果その住民の利益の侵害につながる財務的事項に限られるのであつて、それ以外の財務に関しない一般的行政行為の合法、違法を争うことは、わが国の住民訴訟制度上許されないものとされている。

したがつて、本件の公金支出自体が違法と主張するか、公金支出を直接義務付けた手続中に違法があつたと主張するもの以外に、本件公金支出を対象とする住民訴訟は許されないというべきである。

本件の公金支出は、原告らが違法であると主張している用途変更行為とは全く別個独立の行為である。右支出は正規の入札手続を経て締結された建物建築請負契約により支払義務が発生し、予算等の処置を経た上で支出されたもので、この間に何ら違法なものはなく、この支出は、原告らが主張する用途変更行為の当然の結果によるものではない。

原告らは、本件住民訴訟において、処分の違法性、財務性の有無を検討するに当たつて、本件用途変更行為から公金支出行為までをあたかも一個の行為のごとくとらえ、その全体を住民訴訟の対象としようとしているようであるが、先に述べた住民訴訟の制度上の制約からみて、このように職種の範囲を広くとらえることは許されていない。

7 同7は否認する。

仮に、本件用途変更が無効であるとしても、調布市は本件請負契約に基づき、本件建物を取得しており、次に述べるとおり、これを取り壊さなければならない事態の発生はあり得ないから、原告ら主張の損害が発生する余地はない。

(一) 本案前の主張において主張したとおり、本件用途変更は、被告市長の行政内部の行為であつて、行政財産である本件土地について、管理所轄を変更するための手続である。

そもそも普通地方公共団体の財産の取得、管理、処分並びに公の施設の設置、管理、廃止はその長の職務権限に属し(地方自治法一四九条)、公有財産の効率的運用のための総合調整権すら広く認められている(同法二三八条の二)。また、同法上、公有財産は普通財産と行政財産に分類されているのみであつて(同法二三八条二項)、行政財産を管理上更に細分類するか否かは地方公共団体の内部処理に委されている(同法二四三条の五、同法施行令一七三条の二)。

判例は、普通財産と行政財産の分類の場合でもこれを地方公共団体の内部処理にすぎず、現にどのような行政目的に供されていたか、その客観的効用いかんによつて客観的に判断されるべきであり、土地台帳上の分類によらないとしている。まして、本件のごとく、行政財産相互の用途変更はこれによつて客観的な使用目的を外部の者に対してまでも拘束されるものではない。

したがつて、原告らの主張するように、仮に本件の用途変更が無効、あるいは違法であつたとしても、これは被告市長内部の事務処理上の問題にすぎず、児童遊園の区域を変更し、本件建物を建築する内部意思決定がなされ、本件土地の管理が現実に公園緑地課から福祉事務所に移管されている以上、本件土地は児童遊園用地のまま存在するものではなく、福祉作業所用地であつて、他の法令上建物建築が違法とされ、その収去義務が定められていない限り、建築済みの本件建物を収去すべき理由はない。

(二) 地方自治体が設置する公園は、〈1〉都市公園法、〈2〉児童福祉法、〈3〉条例、〈4〉その他にそれぞれ根拠を置くものが存在する。

右のうち、「その他」というのは、土地所有者の好意によつて土地の使用貸借、賃貸借等の契約を締結して一定期間公園として開放される場合であり、調布市にあつては「仲よし広場」がこれに該当する。〈1〉ないし〈3〉に基づき設置された公園は、いずれもその根拠法規の定めるところによつて処理される。

(三) しかして、都市公園法による公園は、都市計画法四条六項及び同条二項に根拠を置くものであるところ、都市計画法八一条は、監督処分として公園内の建物その他の物件について一定の要件に基づく除却を命じ得る場合を規定しているが、児童福祉法はそのような規定を置いていない。

本件の用途変更前の公園は、右いずれの制定法はもちろん、調布市都市公園条例にもよらず、調布市児童遊園条例に基づいて設置されたものである。そして、右条例にも前記都市計画法に定めるのと同様な建物等を除却し得る場合の規定は存在しない。

してみると、用途変更前の公園に建物が建築されたとしても、当該建物を除却すべき法的根拠規定は全く存在しないのであるから、仮に用途変更行為が無効であると仮定しても、本件建物が除却されなければならない根拠は全くないこととなる。

(四) 道路の自由使用の利益は、道路が一般交通の用に供されることによつて生ずる反射的利益に過ぎないものであつて、特殊な場合を除いて、道路使用の権利として保護されるのではないと解されるのが一般である。同様に、公園の設置により、一般の利用に供された場合の利用の利益は、公園の用に供されたことによる反射的利益に過ぎないと解すべきであり、したがつて、公園利用者に権利として保護されるものではない。

しかして、道路なり公園に建物その他の工作物が設置された場合、それが関係法規に違反し、関係法規の定めるところに従つて除却されることがあり得ても、除却に関する法的根拠が存しない場合には、民事一般法の不法行為等を理由に除却を請求することとならざるを得ない。

しかし、右に見たように公園利用の利益は単なる反射的利益であつて、権利として保護されるものではないのであるから、民事一般法に基づいて除却を求める根拠とはなり得ない。したがつて、公園利用権を主張して、本件建物の取壊しを求めることもできないものである。

(五) 以上、いずれにしても、本件用途変更が無効であると仮定しても、本件建物を取り壊さなければならない事態の発生はあり得ないものである。したがつて、原告ら主張の如き損害が発生する余地はない。

8 同8は争う。

9 同9のうち、(一)は認める。

(二)は否認する。原告らは、調布市は本件用途変更を秘密にし、仮処分命令申請書において虚偽の事実を述べたと主張するが、かかる事実はない。仮処分事件において調布市は、福祉作業所の建築申請当時あるいは仮処分申請当時本件土地は「公園緑地、緊急避難場所」として指定されていないことを主張しているにすぎない。

本件用途変更は、元来行政内部の行為であつて処分時において原告らを含む調布市民に通知、公示等をなすべく定められている処分ではない。したがつて、本件用途変更を原告らが知らなかつたからといつて、当然に正当な理由があるとすべきでないことはいうまでもない。よつて、原告らの出訴期間の不遵守について正当な理由があるとする主張は根拠がない。

(抗告訴訟)

一  請求原因

1 (本件用途変更)

住民訴訟の請求原因2に同じ。

2 (行政処分性)

本件用途変更は、取消訴訟又は無効確認訴訟の対象となる行政処分に該当するものである。その理由は、住民訴訟の請求原因3(一)で述べたところと同じである。

3 (本件用途変更の違法性)

住民訴訟の請求原因4に同じ。

4 (原告適格)

原告らは、本件用途変更により、次のとおり不利益を受け、法的に保護された利益を侵害された。

(一) 原告らは、本件土地に隣接する集合住宅であるコープ調布の居住者であるところ、本件用途変更により本件土地を児童遊園として利用する権利を奪われるという不利益を受け、次のような被害が生じた。

コープ調布の戸数は、全体で三三〇戸であるが、居住者のうち、小学校六年生以下の子供は三五〇人在住しており、本件土地に直接隣接するコープ調布E棟(六六戸)には、小学生が二九人、未就学児が三四人在住し、本件土地は必要欠くべからざる生活空間となつている。本件土地を児童遊園として利用できなくなつたことにより、原告ら住民の子供たちには次のような変化が生じ、養育上、教育上の困難が生じた。

以前より戸外で活動することが減少した。幼児は駐車場で遊びがちとなり、外来車両にひかれそうになつたことが少なくとも三度はあつた。この事件以来、母親が幼児から目を離せなくなり、幼児の戸外生活時間が極端に減少し、その結果、幼児の寝つきが悪い、むづかることが多くなり便通も悪くなるという悩みが発生した。その他、近隣公園における遊び場の奪い合いなど、教育上、児童の成育上の問題が拡大した状況であつた。都市における公遊園は、貴重な自然であり、人間に残された数少ない自由の広場である。特に子供達にとつては、のびのびと自分を表現できる大切な空間である。調布市にあつては、市立公遊園は、数はあるが面積としては僅かであり、また、地価の上昇により新たな公園用地取得は困難な状況にある。

(二) 原告らの本件土地を児童遊園として利用することができる利益は、法的に保護された利益である。すなわち、本件土地が調布市に寄付されたのは、調布市の指導要綱に基づいているところ、その前文には「開発事業を推進される場合には、『開発行為ならびに集合住宅建設等に伴う指導要綱』をもとに、関連施設の整備に全面的なご協力をお願いいたします。」と定めている。したがつて、本件土地は、原告らの関連施設たる公遊園を整備する目的のために調布市に寄付されたのであり、その使用目的は寄付の根拠となつた指導要綱から生ずる内在的制約として、これを逸脱することができず、原告らが本件土地を公遊園として使用する利益は、右指導要綱により権利として確立されている。一般市民が一般の公共施設を利用する権利は、時として反射利益であるといわれるが、原告らの権利は右のような理由で、反射的利益とは明らかに異なる。

(三) また、本件土地は、調布市児童遊園条例によつて児童遊園と定められ、同条例一条によつて「児童」のために設置されたことが明らかである。児童遊園を遠方の児童が利用することは、極めてまれであるから、右にいう児童とは、公園の近隣に居住する児童であるとしか考えられない。そうすると、同条例は、児童遊園の近隣の児童及びその保護者の利益を保護した規定であり、原告らの本件土地を児童遊園として利用することができる利益は、同条例によつて法的に保護された利益であるというべきである。

5 (出訴期間)

(一) 原告らが本件用途変更を知つたのは、当事者目録1、5、17、29及び41記載の原告については昭和五八年四月二一日であり、同2ないし4、6ないし16及び18記載の原告については同年五月七日であり、その余の原告らについては同年四月二三日である。よつて、本件訴えは、本件用途変更があつたことを知つた日から三か月以内に提起されたものである。

(二) 本件訴えは、本件用途変更の日である昭和五六年九月七日から行政事件訴訟法一四条三項本文に規定する一年の期間を経過した後に提起されたものであるが、右出訴期間を遵守できなかつたことには、同項ただし書きの正当な理由がある。右正当な理由を基礎づける事実は、住民訴訟の請求原因9(二)(1)ないし(4)で述べたところと同じである。

6 (結論)

よつて、原告らは、被告市長に対し、本件用途変更の無効確認又は取消しを求める。

二  被告市長の本案前の主張

1 本件用途変更は、行政処分に該当しないから、本件訴えは、不適法である。その理由は、住民訴訟における被告市長の本案前の主張1(一)、(二)で述べたところと同じである。

2 原告らは、本件訴えの原告適格を有しない。原告らは、本件土地を児童遊園として利用することができる利益を侵害されたと主張するが、公園の設置により公園が一般の利用に供された場合のその利用の利益は、公園の用に供されたことによる反射的利益にすぎないと解すべきであり、公園を利用する利益は、法的に保護された利益ということはできない。したがつて、原告らは、本件用途変更により法的に保護された利益を侵害されたものということはできないから、本件訴えの原告適格を有しない。

3 本件訴えは、抗告訴訟の出訴期間を徒過して提起されたものであるから、不適法である。

三  本案前の主張に対する認否

本案前の主張は争う。

四  請求原因に対する認否及び反論

1 請求原因1は認める。

2 同2は争う。

3 同3に対する認否及び反論は、住民訴訟の請求原因に対する認否及び反論3、4において、住民訴訟の請求原因4に対する認否及び反論として述べたところと同じである。

4 同4は争う。

5 同5(一)は否認する。同5(二)に対する認否は、住民訴訟の請求原因に対する認否及び反論9において、住民訴訟の請求原因9(二)に対する認否として述べたところと同じである。

第三証拠〈省略〉

理由

第一住民訴訟について

一  請求原因1(原告らの地位)、2(被告市長の本件用途変更)の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、本件用途変更が行政処分であるかどうかについて判断する。

行政庁の行為が行政処分に該当するものというためには、当該行為が直接に国民の権利義務ないし法律上の利益に変動を及ぼすものでなければならないものである。

これを本件についてみるに、本件用途変更は、地方自治法一四九条六号に規定する普通地方公共団体の長の財産管理の権限の行使として、管理規則二条七号に規定する用途変更として行われたものであるところ、普通地方公共団体の財産の管理等及び用途変更等に関する地方自治法及び管理規則等の規定の内容は、後記三で判示するとおりであつて、用途変更が直接に国民の権利義務ないし法律上の利益に影響を及ぼすことを認める法令の規定は、一切存在しない。また、弁論の全趣旨によれば、本件用途変更が告示、公告等により外部に対して表示されたことはないことが認められる。

そうすると、本件用途変更は、被告市長の公有財産管理上の内部的な措置であつて、いわゆる行政庁の内部的行為にすぎないものであり、直接に国民の権利義務ないし法律上の地位に変動を及ぼすものではないといわなければならない。したがつて、本件用途変更は、行政処分に該当するものということはできない。

よつて、原告らの被告市長に対する地方自治法二四二条の二第一項二号に基づく請求は、その余の点について判断するまでもなく、不適法として却下を免れない。

三  次に、原告らの被告金子に対する請求について判断する。

原告らの被告金子に対する請求は、本件用途変更の違法を理由として本件請負契約及び公金の支出が違法であるとし、本件請負契約の代金相当額の損害の賠償を求めるものである。

そこで、本件用途変更の性質等について検討するに、まず、本件用途変更は、管理規則に規定する用途変更として行われたものである。

ところで、地方自治法は、普通地方公共団体の財産の取得、管理及び処分は、その長の職務権限に属するものとし(一四九条六号)、その公有財産は、普通財産と行政財産に分類すべきものとする(二三八条二項)が、行政財産を財務上更にその用途により区分して管理等を行うかどうかについては、特段の規定を設けず、これを普通地方公共団体の内部規律に委ねている(二四三条の五、同法施行令一七三の二)。そして、管理規則は、右地方自治法及び同法施行令の委任規定に基づいて制定されたものと解されるところ、同規則は、用途変更を「行政財産の用途を変更し、他の用途(所属換え、所管換え等をいう。)に供することをいう。」(二条七号)と、「用途」を「行政財産が供用されている具体的目的をいう。」(同条六号)とそれぞれ定義した上、財産の用途決定に伴う引渡しについて、「総務部長は、取得した財産を行政財産としてその用に供する場合は、すみやかに第一六条に規定する公有財産台帳(副本)を作成して、課長または教育委員会に引渡さなければならない。」と規定し(一三条)、用途変更について、「課長及び教育委員会は、行政財産の用途を変更する必要が生じたときは、その理由を示して、総務部長を経て市長に申し出なければならない。」「用途変更の決定があつたときは、その財産を所管する課長又は教育委員会は、ただちに当該財産に台帳(副本)をそえて総務部長に引き継がなければならない。」と規定し(三五条、三四条二項本文)、異なる会計間の用途変更等について、「財産を所属を異にする会計の間において、用途変更をし、または所属を異にする会計をして使用させるときは当該会計の間において有償で整理するものとする。ただし、特別の理由があるときは、無償とすることができる。」と規定する(三六条)など、用途変更の申出、用途決定又は用途変更に伴う財産の引継ぎ又は会計上の処理等の手続について若干の規定を設けているものの、行政財産の用途の具体的な区分、行政財産の用途決定及び用途変更の要件、基準、手続及び法律効果等については何ら規定を設けていない。そして、管理規則は、行政財産保管の分掌について、行政財産の保管に関する事務は、公の施設の用に供している財産については当該公の施設に係る事務又は事業を所掌する課の課長が、公用に供している財産については当該公用の目的である事務又は事業を所掌する課の課長がそれぞれ行う旨を規定している(五条)ので、行政財産の供用目的に従い用途決定がされることにより当該行政財産の保管の事務を分掌する者が決定され、行政財産の供用目的の変更により用途変更がされることに伴い当該行政財産の保管の事務を分掌する者が変更されることになる。

以上によれば、管理規則が行政財産の供用目的に従い用途決定をし、供用目的を変更する場合に用途変更をすることとしているのは、行政財産を供用目的によつて分類することによつて、その供用目的である事務等を所掌する課の課長に市長の有する公有財産の保管の権限を分掌させ、もつて市長の右権限の行使の適正を期する目的に出たものと解されるから、管理規則にいう用途は、調布市の公有財産管理上の内部的な分類にすぎず、用途決定は、行政財産の保管の事務を分掌する者、すなわち行政財産の保管の事務の所管を定める効果を有するにすぎないものであつて、それ以上に、当該用途決定に係る行政財産を用途決定に係る用途以外の行政目的に供することを制限するなど地方自治法一四九条六号の規定による市長の財産管理権限に制約を及ぼすような法律効果は、生じるに由ないものというべきである。また、同様に、用途変更は、管理規則二条七号の定義規定に括孤書きで示されているとおり、行政財産の所管換え、すなわち当該行政財産の保管の事務の分掌者の変更等の効果を有するものにすぎないものというべきである。

右に説示した用途決定及び用途変更の性質及び効果に照らすと、本件土地についてその用途を児童遊園から福祉作業所等用地へ変更することは、本件請負契約を適法に締結するための要件をなすものではなく、仮に本件用途変更に何らかの違法があるとしても、その違法は、結局、本件土地の保管に関する調布市の行政機関内部の事務分掌違背の問題を生じさせるにとどまり、本件請負契約及び公金の支出を違法ならしめるものではないというべきであるから、本件用途変更が違法であることをもつて、本件請負契約が違法であるということはできない。

よつて、本件用途変更の違法を理由として本件請負契約及び公金の支出が違法であるとする原告らの主張は、採用することができず、原告らの被告金子に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく、失当として棄却を免れないものというべきである。

第二抗告訴訟について

一  請求原因一(被告市長の本件用途変更)の事実は、当事者間に争いがない。

二  原告らは、本件用途変更が行政処分であるとしてその無効確認又は取消しを求めるものであるところ、本件用途変更が行政処分に該当しないことは、前記第一の二で判示したとおりであるから、原告らの本件訴えは、その余の点について判断するまでもなく、不適法として却下を免れない。

第三結論

よつて、原告らの被告市長に対する住民訴訟に係る訴え及び抗告訴訟に係る訴えは、いずれも不適法であるから却下し、原告らの被告金子に対する請求は、理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 宍戸達徳 柳田幸三 金子順一)

当事者目録〈省略〉

物件目録

一 所在 東京都調布市富士見町弐丁目

地番 壱六番参参

地目 宅地

地積 四七八・八九平方メートル

二 所在 右同所

地番 壱六番参五

地目 宅地

地積 参〇参・四〇平方メートル

三 所在 右同所

地番 壱六番参六

地目 宅地

地積 壱弐九・四〇平方メートル

四 所在 右同所

地番 壱六番参四

地目 宅地

地積 弐〇五・七弐平方メートル

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